Knobe, J. (2003). Intentional Action and Side Effects in Ordinary Language. Analysis, 63, 190-193.
で行ったものです。この実験をもとに様々な実験が行われており、今度の学会の招待講演者の一人、James Beebe氏の実験も、これを認識論に応用したものです。以下の記述は、学会のプレコンファレンスセミナーでの入門講義用につくったスライドからの抜粋なので、箇条書きですが、Knobeの実験を知るには十分だと思います。
Knobeの実験
目的:意図的行為(intentional action)に関する哲学理論の検証。
行為の副作用(side-effect):ある人物Aが、Xが彼の行動から帰結すると予期しながらも、Xが実際に起こるかどうか関知しないとき、XはAの行為の副作用。
このとき、XはAによって意図的に引き起こされたのか、それともそうでないのか。
被験者:マンハッタンのある公園でくつろいでいた78人の男女。被験者はランダムに以下のケースのどちらかを提示される。
方法:被験者は、会長の行為がどの程度賞賛に値するのかを0から6までの尺度で評価し、かつ彼の行為の環境に関する副作用が、彼が意図的に引き起こしたのかどうかを答える。
改善ケース:
ある会社の副社長は会長のところに行き、「新たなプロジェクトを始めようと考えている。新プロジェクトは会社の利益増大の助けになり、そして、それは自然環境の改善につながる」、と話した。
会長は答えて、「私はそれが環境に良いかどうか全く関知しない、私は単に、できるかぎりの利益をえたいだけだ。新プロジェクトを始めようではないか」、と言った。
彼らは新プロジェクトを開始した。当然の事ながら、環境は改善された。
(ここで、会長は環境改善を意図的に引き起こしたかどうか、考えてください)
有害ケース:
ある会社の副社長は会長のところに行き、「新たなプロジェクトを始めようと考えている。新プロジェクトは会社の利益増大の助けになり、そして、それは自然環境にとって有害となる」、と話した。
会長は答えて、「私はそれが環境に悪いかどうか全く関知しない、私は単に、できるかぎりの利益をえたいだけだ。新プロジェクトを始めようではないか」、と言った。
彼らは新プロジェクトを開始した。当然の事ながら、環境は被害をうけた。
(ここで、会長は環境悪化を意図的に引き起こしたかどうか、考えてください)
有害ケースの結果:82%の被験者が、「会長は副作用を意図的に引き起こした」を選んだ。
改善ケースの結果:77%の被験者が、「会長は副作用を意図的に引き起こしていない」を選んだ。
結果は統計的に有意: χ2(1, N = 78) = 27.2, p < .001.
この実験結果は、クノービ効果、ないし副作用効果、と呼ばれる:道徳的判断が、意図的行為の判断に対してもつ影響。
道徳的に悪い副作用を持つと判断された行為は、意図的だと判断され、道徳的に良い副作用を持つと判断された行為は、意図的でないと判断される。
クノービ効果は、4歳児、インド系移民、 腹内側前頭皮質に損傷をうけた人々においても、観察されている。
クノービ効果の範囲(意図以外の他の心的態度に一般化可能か)や内実(道徳的考察だけでなく、他の類似した考察も同様の効果を持つか)は、実験的記述主義の中心的研究。
クノービの、クノービ効果についての見解は、これらの(彼が中心となって行っている)研究を受けて、かなり変化していますが、ここではこれ以上解説しません。