2014年12月21日

2014年の認識論を振り返る

今年もまったくブログを更新しませんでした…。書きたいことはいろいろあるのですが、全然時間が空かないという状況です。今年は4月から京都大学所属の学振PDとして、学振課題のアプリオリ・アポステリオリな知識の研究と、同時に受給している科研(若手B)の民間心理学の研究を行っていました。国内外のあちこちの学会で発表を多くして、人生で一番忙しい1年だったかもしれません。

さて、そういうわけで今年の認識論の動向のフォローはちょっと十分でないのですが、毎年恒例の「今年の認識論」を振り返るです。今年は大きな動きとして特徴づけられるものがあまりないのですが、現代認識論の多様性を示すように、いろいろなテーマについての著作、論文集が出た年でした。

(1)徳認識論の進展
毎年のように書いていますが、やはり徳認識論ブームが続いています。今年目立った動きとしては、徳の自然化という方向で徳認識論を進展させようという方向です。

Abrol Fairweather & Owen Flanagan (eds.). (2014). Naturalizing Epistemic Virtue. Cambridge University Press.
Abrol Fairweather (ed.). (2014). Virtue Epistemology Naturalized: Bridges Between Virtue Epistemology and Philosophy of Science. Springer.

まあ、どちらもAbrol Fairweatherが編者に入っているので、これを徳認識論の「動き」と呼んで良いか分かりませんが、徳の自然化は、徳認識論だけでなく徳倫理学でもずっと話題になっているテーマです。ただどちらかというと、心理学的な実験成果が、徳認識論、徳倫理学の基本的な想定とうまく整合しないという批判的な研究が多いです。そうした批判を受けて徳認識論はどうなるのか、どうすべきかという本はこれ。

Mark Alfano. (2014). Character as Moral Fiction. Cambridge University Press.

徳認識論と徳倫理の関係を知るには、その両者を研究している以下の研究者の「徳」一般についての入門書が参考になるかもしれません。

Heather Battaly. (2014). Virtue. Polity Press.

(2)認識的規範の研究
21世紀の認識論で盛んに論じられるテーマの一つは、知識が信念、断言、行為などの規範でありうるか、そうでなければ、何がそうした規範なのかというものです(ただし、信念の認識論規範の問題は、The ethics of beliefという問題に組み込まれることが多く、この問題自体は古い)。例えば、信念が断言の規範であるということは、「pと知らなければ、pと断言することは(認識的に)許容されない」ということであり、知らずにpと断言してしまう人は、プラグマティック、その他の観点からその断言が許容されても、認識的観点からは非難に値するということになります。

これらのテーマは、今までかなり論じられてきたのですが、雑誌論文が多くて、論文集という形ではまとまっていなかったですが、2冊ほど出版されました。

Clayton Littlejohn & John Turri (eds.). (2014). Epistemic Norms: New Essays on Action, Belief, and Assertion. Oxford University Press.
Jonathan Matheson & Rico Vitz (eds.). (2014). The Ethics of Belief. Oxford University Press.

(3)証言による知識・共同体の知識の研究
80年代頃からさかんになってきたのが、証言による知識の研究。われわれの多くの知識は他者の証言の伝聞によっているのは自明であるように見える。でも、他者の証言は、従来の言われてきた経験、非経験的な知識の源泉とかなり異なるので、それがどういう意味で知識の源泉なのか(あるいはそうでないのか)をきちんと探求しようというのが問題意識です。この分野を牽引してきた研究者の論文をまとめた論文集が出ました。

Paul Faulkner. (2014). Knowledge on Trust. Oxford University Press.

証言による知識は、個人の知識とは異なる、共同体の有する知識の研究の一部として扱われることがあります。分析哲学の認識論では、共同体の知識はまだあんまり研究されていない分野ですが、論文集がでました。

Jennifer Lackey (ed.). (2014). Essays in Collective Epistemology. Oxford University Press.

(4)実験哲学と認識論
実験哲学が伝統的認識論、あるいは哲学一般にどのようなインパクトを与えるかは、最近もずっと議論されています。初期の頃の過度に批判的な論調は、だいぶ初期の実験や議論の不備が明らかになってきたものの、新しい実験、発見は現在も続いています。実験手法もだいぶ洗練されてきました。それをまとめた、実験哲学の発展についての論文集シリーズの認識論編が出ました。

James Beebe. (2014). Advances in Experimental Epistemology. Bloomsbury Academic.

実験哲学についての批判派、擁護派の論争を知るために、こちらもどうぞ。

Edouard Machery & Elizabeth O'Neill (Eds.) (2014). Current Controversies in Experimental Philosophy. Routledge.

(5)無限主義
無限主義(Infinitism)とは、正当化の構造に関する基礎づけ主義、整合説に続く第3の立場で、理由による正当化が循環せず、直線的に続くという点で基礎づけ主義に同意する一方で、その正当化が終着点を持たず、無限に続くという点で基礎づけ主義を否定する立場です。Peter Klainという人が、現代の代表的論者で、それ以外の人はあまり受け入れてなかったのですが、最近注目が集まってきて(これは形而上学にこれを応用しようという動きとも連動してます)、論文集も出ました。

John Turri & Peter D. Klein (Eds.). (2014). Ad Infinitum: New Essays on Epistemological Infinitism. Oxford University Press.

無限主義を直接扱ってないですが、関連するテーマの本がこれ。Springerの新しいシリーズで、特定トピックに関する短い本。

Jan Willem Wieland. (2014). Infinite Regress Arguments. Springer.

(6)若手、中堅の実力派の著作
分析哲学はメインの研究発表媒体が専門誌なので、実力、実績十分でも単著がないという人が少なくありません。そんななか年齢的に若手〜中堅ながら、その実力を高く評価されている認識論者の単著が幾つか公刊されました。

John MacFarlane. Assessment Sensitivity: Relative Truth and its Applications. Oxford University Press.

長らく草稿が公開されていたものの、未公刊だった超実力派、MacFarlaneの本です。言語哲学の本ですが、彼の相対主義は、「知っている」という語をターゲットの一つとして展開されたので、文脈主義のライバルとされる立場です。

Michael Blome-Tillmann. (2014). Knowledge and Presuppositions. Oxford University Press.

文脈主義の最大の擁護者の1人ですが、語用論的前提を使った独自のヴァージョンの文脈主義を提唱しています。

Aidan McGlynn. (2014). Knowledge First? Palgrave Macmillan.

Williamsonの提唱した、知識を他のもので説明、分析するのでなく、知識を使って他のものを説明、分析しようというKnowledge Firstプログラムは、かなり議論される割に誤解も多いプログラムです。それをきちんと提示、説明し、批判的に検討するという待望の本。

(7)その他の論文集

論文集はホットなトピックで出されることが多く、内容を見てみると何が今話題なのか分かります。まずはやはり、近年話題の直観。

Anthony Robert Booth & Darrell P. Rowbottom (Eds.). (2014). Intuitions. Oxford University Press.

ちょっと面白いのが、信念についての論文集。信念って、認識論では知識のトリビアルな必要条件としてほとんど扱われないんですが、信念単独でもいろいろ論じるべきなんですよね、本当は。

Nikolaj Nottelmann. (2014). New Essays on Belief: Constitution, Content and Structure. Palgrave Macmillan.

(8)豪華執筆者による入門書
認識論の入門書は毎年多く公刊されるのですが、誰だよという人が著者のことも少なくありません。入門書を書くというのはすごく難しくて、その分野についての体系的な知識と最先端の知識を持っていないと書けない、と個人的には思います。なぜ入門書で最先端の知識がいるかと言えば、分析哲学の流れは速いので、長く使われるために、現時点のそして近い将来の動きも見越した観点を盛り込む必要があると思うからです。

今年は、この難しい条件を満たしうる大物認識論者による入門書の刊行が相次ぎました。これら入門書から認識論を学び始めることができるのは幸せなことだろうなあと思います。

まずは、前提知識をほとんど必要としない、Short Introductionシリーズの1冊。

Jennifer Nagel. (2014). Knowledge: A Very Short Introduction. Oxford University Press.

次は、学部生向けですが、もう少し本格向けの入門用。従来の入門書では触れられていない最近のトピックもちゃんと入っています。

Alvin Goldman & Matthew McGrath. (2014). Epistemology: A Contemporary Introduction. Oxford University Press.

最後は、珍しい懐疑論に定位した入門書。この著者も中堅の実力派の1人。

Allan Hazlett. (2014). A Critical Introduction to Skepticism. Bloomsbury Academic.

さらに、現代認識論の論争状況を知るために、こちらもどうぞ。上の実験哲学のところで紹介した本と同じシリーズですね。

Ram Neta (Ed.). (2014). Current Controversies in Epistemology. Routledge.


さて、今年も全部取り上げたと言えませんが、出版物から見る、認識論の2014年の動向はこんなところでしょうか。来年もいろいろ出版予定なので、今から楽しみです。では皆さん、良いお年を!
posted by hakutaku at 13:36| Comment(1) | TrackBack(0) | 認識論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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