2010年01月29日

実験哲学からの挑戦

実験哲学で検索してうちのブログを見てくれた人が最近随分います。おそらく、実験経済学・哲学の学会の情報をかなりの人が知ってくれたからだと思います。

といっても、うちのブログは今まで実験哲学のことは全然書いていません。申し訳ないので、去年に応用哲学会で発表するために作成した論文をアップすることにしました。実験哲学の立場の一つである、実験的制限主義とその批判的検討が主題です。この論文は、最終的に学会誌に投稿することを意図していましたが、当時いろいろと不満な点があり、一年近く放置していました。あまり手直しもしていませんが、この一年でまたいろいろと論文が出ましたので、それらの情報を盛り込み、幾つか註を追加しました。まだ文章、内容面で完全なものとは言えませんが、実験哲学をこれから勉強したいという人には、それなりに役立つと思います。

この論文の内容は、

1、実験哲学内の立場の一つである、実験的制限主義を巡る議論のサーヴェイ。
2、直観の認識論のサーヴェイ。
3、実験的制限主義の批判的検討。

となっています。実験哲学についてはすでに幾つかサーヴェイが出ていますので、一応それら以上のものしようと頑張りました(他のサーヴヴェイは数年前に書かれていて、展開の早い実験哲学のサーヴェイとしては、やや時代遅れになっています。この論文は、現在入手できる限りで最新の文献までフォローしているので、2010年1月現在で、最もuptodateなサーヴェイになっていると思います)。また、実験哲学を巡る議論を理解するには、なにより直観がどのような認識論的役割を持っているのかを知る必要があります。このトピックは現在の認識論のホットトピックの一つなので、それについてかなり詳しく書き、結局サーヴェイ内サーヴェイという感じになってしまいました。サーヴェイばかりではオリジナリティがないので、一応最終節で自分の意見を書いています。

実験哲学の一立場に焦点を合わせていますので、実験哲学一般のサーヴェイとしてはやや不完全です。特に、実験哲学の立役者の一人、Joshua Knobeの実験と、それに関する議論については、註で文献を挙げているだけで、それについての記述がまったくありません。この実験は、次の学会の招待講演者の一人、James Beebe氏のやった実験のもとになっているものなので、いずれこのブログか、どこかできちんと紹介します。

この論文はまだ一部未完成なので、引用や転載を原則禁じます。もしそういうことをしたいという方がいれば、連絡してください(連絡はコメント欄か、僕の大学のホームページからメールでお願いします)。質問やコメントは歓迎しますが、答えられない場合もありますので、ご寛恕ください。

PDFをブログ上に埋め込んでいます。一番右上のアイコンをクリックすると、全画面表示になります。



posted by hakutaku at 19:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 実験哲学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

最近の入門書

「文脈主義を学ぶひとのために」は、なかなか評判が良かったみたいで嬉しい限り。あそこで書き忘れたのだが、文脈主義の勉強をするためには、そもそも認識論を知っていないと、なかなか難しい。認識論の入門書はこのブログで幾つか紹介してきたが、今まで紹介してなかったものを幾つか紹介。僕は入門書マニアなので、こういうの書くのは楽しくて仕方ないなあ。

Duncan Pritchard, What is this Thing Called Knowledge? (Routledge, 1st ed. 2006, 2nd ed. 2009)

認識論の知識が全くないという人は、とりあえずこの本からがいいかもしれない。学部1回生向けなので、記述は簡単だが、いろいろ面白く読めるように工夫されている。2000年以降の認識論の動向も抑えられている。しかし、2006年に1版が出て、もう2版である。最近の認識論の流れの速さを象徴しているなあ。僕は2版は読んでいないが、どこが変わっているのかな?

2版といえば、この入門書も最近2版が出た。

Laurence BonJour, Epistemology: Classic Problems and Contemporary Responses. (Rowman & Littlefield, 1st ed. 2002, 2nd ed. 2009)

この本は学部中級向けの入門書。これまた1版しか読んでいないが、なかなかいい。

同じく学部中級向けで、もう少し詳しく個々の哲学者の見解に焦点を合わせたものが、これ。Cambridge Introduction to Philosophyというシリーズの1冊で、このシリーズはどれをよんでも結構いい。

Marcelino Lemos, An Introduction to the Theory of Knowledge. (Cambridge University Press, 2007)

現代の分析系認識論にある程度知識があるという人、またはあまり詳しくならなくても手っ取り早くいろんな立場を知りたいという人には、ここでしばしば言及しているFeldmanのやつか、これ。

Duncan Pritchard, Knowledge. (Palgrave Macmillan, 2009)

いろんな立場(かなり新しいものも含む)が簡素に整理されていて、薄いが充実している。しかし、Pritchardは短期間に2冊も入門書書いてるんだなあ。あいかわらずの仕事量。僕は数年前までかなりのPritchard好きで、彼の著作、論文を全部読んでいたが、最近追いつかなくなってきた。ほんとにすごい仕事量だ。

同じように薄いが、内容的にかなりディープなのが、これ。

Linda Zagzebski, On Epistemology. (Wadsworth Publishing, 2008)

Zagzebskiは徳認識論の第一人者。日本では徳認識論者といえばSosaが有名だと思うが、Sosaの徳認識論は信頼性主義の変形にすぎなくて、あまり徳認識論というネーミングが相応しくない(ただし、最近立場が変わって、ややZagzebskiのアイデアにやや近づいた)。彼女は、知識の価値を巡る認識論の展開(Value Turn)を牽引した一人としても有名。この本も、知識の価値というトピックが詳しく書かれている(Pritchardもその一人で、彼の入門書にもこのトピックは入っている)。


あとはやはりアンソロジーを入手して、トピック別にまとめられた論文を解説と共に読む、というのが勉強にはいいと思う。こちらの大学の学部生向け認識論のクラスで、最も使われる(と思われる)教科書はこれ。

Ernest Sosa, Jaegwon Kim, Jeremy Fantl, and Matthew McGrath, Epistemology: An Anthology. (Blackwell, 2nd ed 2008)

一昔前の1版とはだいぶ論文が変わっている。最大の違いは、ここ最近のホットトピック、文脈主義と知識の価値が項目として加えられたこと。前者に関しては、MacFarlaneの相対主義(relativism)の論文まで入っている、ちょっと未来に行き過ぎの感じ。知識の価値は徳認識論とまとめられているのが、ちょっと不満だな。

知識の価値はプラトン以来の問題だし、この問題から入ると、何故知識が哲学の問題になるのか、という点を理解してもらいやすく、認識論の入門には一番いいのではないかと思っている。去年非常勤で認識論を教えたときに、このトピックが入ったアンソロジーを探したのだが、新しすぎるのかなかなか見つからなかった。ようやく見つけて教科書にしたのが、これ。

Duncan Pritchard, and Ram Neta, Arguing About Knowledge. (Routledge, 2008)

僕が教えたかった他のトピック、何が証拠になるのか、信念の倫理、基準の問題、などが入っているのもいい。この本のトピックの分け方は、かなり最近の認識論の流行を反映したものになっている。また、懐疑論のところに、何故かボルヘスの「円環の廃墟」が入っているのも、個人的に好ましい。
posted by hakutaku at 10:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 認識論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする